最高裁判所第二小法廷 昭和34(あ)1415 判決
主 文
本件上告を棄却する。
理 由
弁護人田代博之、同福島等の上告趣意第一点及び第二点について。
所論は、出入国管理令六〇条、七一条は旅券法一三条一項五号の規定と相まつて
憲法二二条二項、三一条に違反する旨主張するが、旅券法一三条一項五号及び出入
国管理令六〇条、七一条がいずれも憲法二二条二項、三一条に違反しないことは、
当裁判所大法廷の判決(前者につき昭和二九年(オ)第八九八号同三三年九月一〇
日判決、後者につき昭和三四年(あ)第一六七八号同三七年一一月二八日判決)の
趣旨に徴し明らかであるから、所論は採ることを得ない。
同第三点について。
所論は、単なる訴訟法違反の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
ところで、本件起訴状記載公訴事実(第一審第一回公判における訂正を含む)は、
「被告人は、日本人であるが、昭和二九年一月二四日頃以降同年六月下旬迄の間に、
有効な旅券に出国の証印を受けないで、本邦より本邦外の地域たる中華人民共和国
に出国したものである」というのであつて、犯罪の日時を表示するに約五箇月の期
間内とし、場所を単に本邦よりとし、その方法につき具体的な表示をしていないこ
とは、所論のとおりである。
しかし、刑訴二五六条三項は、裁判所に対し審判の対象を限定するとともに、被
告人に対し防禦の範囲を示すことを目的とする趣旨であり、また犯罪の日時、場所
及び方法は、犯罪の種類、性質等の如何により、これを詳らかにすることができな
い特殊事情がある場合には、右の法の目的を害さない限りの幅のある表示をしても、
その一事のみを以て、罪となるべき事実を特定しない違法があるというべきでない
ことは、前記昭和三四年(あ)第一六七八号事件判決の示すところである。
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これを本件についてみると、検察官は、本件第一審公判において、証拠により証
明すべき事実として(一)被告人は、昭和二九年一月二三日頃迄西条市に居住して
いたが、その後所在不明となつた事実(二)被告人に対し旅券の発給がない事実(
三)被告人は、昭和三三年七月中華人民共和国よりA丸で帰国した事実を陳述し、
これによれば、検察官は、被告人が昭和二七年一月二三日頃迄は本邦に居住してい
たが、その後所在不明となつてから、日時は詳かでないが中華人民共和国に向けて
不法に出国し、引き続いて本邦外にあり、同三三年七月A丸に乗船して帰国したも
のであるとして、右不法出国の事実を起訴したものとみるべきである。そして、本
件密出国のように、本邦をひそかに出国してわが国と未だ国交を回復せず、外交関
係を維持していない国に赴いた場合は、その出国の具体的顛末についてこれを確認
することが極めて困難であつて、まさに上述の特殊事情のある場合に当るものとい
うべく、たとえその出国の日時、場所及び方法を詳しく具体的に表示しなくても、
起訴状及び検察官の右第一審公判における陳述によつて本件公訴が裁判所に対し審
判を求めようとする対象は、おのずから明らかであり、被告人の防禦の範囲もおの
ずから限定されているというべきであるから、被告人の防禦に実質的の障碍を与え
るおそれはない。それゆえ、所論は採ることを得ない。
同第四点について。
所論は、単なる訴訟法違反の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
なお、刑訴二五五条一項前段の「犯人が国外にいる場合」は、同項後段の「犯人
が逃げ隠れている」場合と異り、公訴時効の進行停止につき、起訴状の謄本の送達
若しくは略式命令の告知ができなかつたことを前提要件とするものではないことは
規定の明文上疑いを容れないところであり、このことは、所論の如く犯罪の性質上
当然犯人が国外にいる場合と雖も、これを別異に解すべき理由はない。それゆえ、
これと異る見解を前提として、本件につき公訴の時効が完成したとする所論は採る
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ことを得ない。
同第五点について。
所論は、独自の見解を以てする単なる法令違反の主張を出でないものであつて、
刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。
よつて同四〇八条により主文の通り判決する。
この判決は、論旨第三点に関する裁判官奥野健一の補足意見があるほか、裁判官
全員一致の意見によるものである。
裁判官奥野健一の補足意見は、本判決に引用された昭和三四年(あ)第一六七八
号事件判決に附記したところと同趣旨である。
昭和三八年一月二五日
最高裁判所第二小法廷
裁判長裁判官 池 田 克
裁判官 河 村 大 助
裁判官 奥 野 健 一
裁判官 山 田 作 之 助
裁判官 草 鹿 浅 之 介
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